東京高等裁判所 昭和49年(ネ)2735号 判決 1976年4月28日
当審引受参加人兼附帯被控訴人 合資会社 宝屋商事
右代表者無限責任社員 宮坂廣
右訴訟代理人弁護士 菊地一二
脱退控訴人 有限会社 今井建材店
右代表者清算人 宮坂廣
控訴人 株式会社 南信住建
右代表者代表取締役 今井敦
控訴人 今井敦
右両名訴訟代理人弁護士 菊地一二
被控訴人兼附帯控訴人 岩波渉
右訴訟代理人弁護士 熊沢賢博
主文
一 本件控訴および附帯控訴を、いずれも棄却する。
二 控訴費用は、控訴人および当審引受参加人らの負担とする。
三 控訴人有限会社今井建材店の脱退および合資会社宝屋商事の訴訟引受により、原判決主文第一項を、次のとおり変更する。
当審引受参加人兼附帯被控訴人合資会社宝屋商事は、被控訴人に対し原判決添付第二目録記載(イ)(ロ)の建物を収去して、原判決添付第一目録記載(イ)、(ロ)の土地を明け渡せ。
事実
当審引受参加人兼附帯被控訴人合資会社宝屋商事(以下「当審引受参加人」または「宝屋商事」という)ならびに控訴人株式会社南信住建(以下「南信住建」という)および控訴人今井敦(以下「控訴人今井」という。以下、宝屋商事、南信住建および控訴人今井の三名を単に「控訴人ら三名」という)は、「原判決を取消す。被控訴人兼附帯控訴人岩波渉(以下「被控訴人」という)の請求を棄却する。訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、主文第一項同旨及び「宝屋商事は被控訴人に対し原判決添付第二目録記載(イ)(ロ)の建物を収去して原判決添付第一目録記載(イ)、(ロ)の土地を明け渡せ。控訴費用は控訴人ら三名の負担とする。」との判決を求め、附帯控訴により、宝屋商事に対する請求について担保を条件とする仮執行の宣言とを求めた。
当事者双方の主張は、次に付加するほかは、原判決記載のとおりであるから、これを引用する。
(当審における新主張)
一 被控訴人
(一) (宝屋商事に対する請求原因)
1 宝屋商事は、脱退控訴人有限会社今井建材店(以下「今井建材店」という)所有にかかる本件建物(イ)および(ロ)を、長野地方裁判所諏訪支部昭和四三年(ケ)第一一号不動産抵当競売事件において競落し、昭和四八年六月二九日その競落代金を支払い、これが所有権を取得し、昭和四八年八月三〇日その旨の登記を経由した。
2 そして、宝屋商事は本件建物(イ)および(ロ)を所有することにより本件土地((イ)および(ロ))を占有している。
3 よって、被控訴人は、宝屋商事に対し、本件土地の所有権に基づいて本件建物(イ)および(ロ)の収去と本件土地明渡を求める。
(二) (再抗弁)
かりに今井建材店において賃借権を有しかつ被控訴人に対しこれを主張することができるとしても、
1 前記(一)1のとおり、宝屋商事は、今井建材店から本件建物(イ)および(ロ)の所有権を取得するとともに本件土地の賃借権をも譲り受けたものというべきところ、被控訴人は右譲受につき承諾したことなく、また承諾に代わるべき裁判所の許可もないから、宝屋商事の土地占有は無権原である。
2 なお、被控訴人は、昭和四九年一一月一二日今井建材店に対し、宝屋商事への賃借権の無断譲渡を理由として、民法六一二条により本件土地の賃貸借を解除した。
二 控訴人ら三名
(一) (答弁)
被控訴人主張の(一)の事実は認めるが、本件建物取得とともに、今井建材店が有していた本件土地賃借権も譲り受けたものである。再抗弁事実は認める。
(二) (再三抗弁)
1 今井建材店から宝屋商事に対する本件土地の賃借権の譲渡には、賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるから、被控訴人の承諾なきも、賃借権を被控訴人に対抗しうるものというべく、また被控訴人が今井建材店に対してした解除はその効力を生じない。
(1) 被控訴人が賃貸人の地位を承継したのは、本件土地に対する競売事件の競落によるものであり、今井建材店の賃借権の存否についての執行官のずさんな調査結果のみにより、しかもこれを利用して競落したうえ、不当に利得しようとして、控訴人ら三名を相手に本訴を提起したものである。
(2) 宝屋商事は、今井建材店に対し融資をし、宝屋商事の代表者自身今井建材店の代表者となってその経営を援助し、かつ今井敦(控訴人)には今井建材店の仕事をさせ、南信住建の代表者とさせて、その事業を援助したのである。
そして、いずれも、事業が思わしくゆかなかったため、宝屋商事は、債権整理のため競売の申立をし、かつ南信住建・今井建材店・控訴人今井の生活のため、自ら本件建物を競落して、これらの者の事業・生活を維持している。
(3) 以上のように、宝屋商事としては、被控訴人との関係において、背信行為と認めるに足りない特別の事情が存するのである。
2 今井建材店、したがって、宝屋商事は本件土地について法定地上権を有する。
今井建材店は、有限会社として法人ではあるが、実体は控訴人今井の個人企業であって、本件土地は今井建材店名義の所有に属するとしても、その実質は控訴人今井の所有というべきである。
そして、被控訴人が本件土地の所有権取得の前提となった抵当権設定当時本件建物(イ)および(ロ)は存在していたのであり、抵当権設定当時本件土地、本件建物(イ)および(ロ)は実質的に控訴人今井の所有に属していたのだから、土地とその地上建物が同一人の所有であったといえる。
それゆえ、本件土地を被控訴人において競落したとき、本件建物(イ)および(ロ)の敷地につき法定地上権が発生した。
したがって、今井建材店、その地位を譲り受けた宝屋商事は、本件土地を権原に基づき適法に占有しているものである。
三 再三抗弁に対する被控訴人の答弁
再三抗弁の1について、被控訴人が本件土地を競落したことは認めるが、その余は争う。2について争う。
宝屋商事は、本件建物について収去を命じる判決が言渡されたことを知りながら、競売の申立をし、自らこれを競落したものであって、背信行為にあたることは言をまたない。
理由
一、被控訴人が、昭和四四年九月五日競落により控訴人今井敦所有の本件土地の所有権を取得(同年一〇月六日移転登記)したこと、当時本件建物は有限会社今井建材店(脱退した控訴人)の所有であったが、引受参加人宝屋商事が昭和四八年六月競落によって、その所有権を取得(昭和四八年八月三〇日移転登記)したこと、控訴人南信住建および今井敦が本件建物を借り受け占有していること、以上の事実は当事者間に争いがない。
二、控訴人らは、宝屋商事は、本件建物を取得するに伴なって、今井建材店から本件土地に対する賃借権を譲り受けたと主張するが、その譲受につき土地所有者である被控訴人の承諾はなく、またこれに代わる裁判所の許可もないことは、その自陳するところであるから、かりに今井建材店に賃借権があったとしても、宝屋商事が、これを被控訴人に主張しえないこと明らかである。控訴人ら主張の事実によっては、右譲渡について背信行為と認めるに足りない特段の事情があるとは認め難く、却って、宝屋商事は、本件一審判決において今井建材店が本件建物の収去を命じられているのを知りながら、敢えてこれが所有権を取得したこと明らかであるから、同人を保護するに値しないものというべきである。また、法定地上権を主張するが、法人格否認の法理は、取引の相手方を保護するためのものであるから、自らの有利のために、これを主張することは許されないものといわねばならない。
三、以上説示したとおり、本件土地の占有権原は認められないから、建物収去、建物退去、土地明渡を求める被控訴人の請求は正当である。理由は異なるが、原判決は結論において同旨であるから、本件控訴を棄却し、被控訴人の仮執行宣言を求める附帯控訴は相当でないから棄却し、引受に伴い原判決を主文第三項のとおり変更し、控訴費用につき民訴法八九条、九三条、九五条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長判事 瀬戸正二 判事 青山達 奈良次郎)